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2011年12月

今号の内容

大学医局紹介 産業医科大学

「医学生勧誘のために使った金額と入局者数は、相関関係にあります」と語るのは、産業医科大学医学部第一外科の山口幸二教授だ。同第一外科では、卒後4年目をめどに単孔式の腹腔鏡手術を執刀させるなど、若手外科医にも積極的に手術を担当させている。

インタビューにお答えいただいた先生のご紹介

略歴やお写真のご紹介をしております。

第1回きみが外科医になる日セミナー開催

当NPOは平成23年10月8日に、若手外科医や研修医・医学生を対象とした「第1回きみが外科医になる日セミナー」を開催しました。セミナーの参加者約300名は、外科医の最前線の講演に耳を傾けたほか、実際の手術で利用するシミュレータに触れました。

大学医局紹介 Vol.3 産業医科大学

~ 手術でしか外科の魅力は伝わらない ~

福岡県における外科医の概況について教えてください

山口幸二先生(以下山口) 他の県と同様、福岡県でも若い医師が少ないという問題を抱えています。しかも、県内でも医師が多い地域と少ない地域がある。例えば福岡市周辺には、大まかに200人くらいの初期研修医がいますが、北九州市近辺には40人ほどしかいません。人口は福岡市が約148万人、北九州市が98万人なので、人口比で言えば現状の3~4倍程度の初期研修医が北九州市にいてもおかしくありません。初期研修医が少ないだけに、当然外科医の志望者も少ないと言わざるを得ません。

では産業医科大学も若手外科医不足で困っていると?

山口 少ないと言えば少ないのですが、毎年平均すると3~4人の入局者がいますので、地方の医学部ほど困った状況にはないというところです。理由は大きく2つあります。1つは産業医科大学という大学固有の事情で、もう1つは医局の取り組み方が影響しています。まず前者について、産業医科大学の医学部の学生はほぼ全員が、入学と同時に奨学金を申請します。産業医など大学が定める職務に9年ほど勤務すれば、年額約380万円の奨学金は返還しなくていいことになっているため、初期研修終了後も再び産業医科大学に戻る「帰学率」は他の医学部に比べてはるかに高いのです。他の医学部に比べると多くの医師が大学医局に残るので、おのずと外科医の数も安定している面もあるかと見ています。

若手医師が多くても、外科を志すかどうかは未知数です。

写真:産業医科大学 外観

山口 たくさんの医師がいるから外科医も多い」とはならないのが、この業界の難しいところです。やはり、医師を外科に導く仕組みが必要ですね。他の大学に比べて第一外科の入局者数が安定している理由のもう1つは、医局が地道に外科医の獲得の努力を重ねていることです。

もっとも大事にしていることは、医学生には手術に触れてもらう機会を多くすることです。年に2回、春と秋にジョンソン・エンド・ジョンソンと協力して吻合・縫合セミナーを開催しています。これは学内に広くポスターを張るなどして、大々的に医学生の参加を呼び掛けています。同様に腹腔鏡セミナーを定期的に開き、医学生に腹腔鏡手術を模擬体験してもらっています。さらに、臨床実習では、教科書を使った講義を意図的に少なくしています。腹腔鏡の疑似体験ができるドライラボにおいて、豚足を使った縫合・結紮など、実技を通して外科の魅力を伝えています。また、8月末に北九州市の中高生を対象に開催する外科医体験「キッズセミナー」にも、医学生を呼んで中高生に交じって手術体験をしてもらいます。

外科医を志望するかどうかは「手術を面白いと思うか」にかかっています。まずは外科に興味がある医学生のピックアップです。臨床実習の際に、医学生たちは患者のベッドサイドを回ります。その後、必ずアンケートを取り、「外科に興味がある」とコメントした学生にアプローチします。そこでは、書籍「きみが外科医になる日」(講談社刊)を配ったことが功を奏しました。大まかに20人ぐらいの医学生に目をつけて、Eメールや電話で話す機会を設けます。そこから、実技体験セミナーの案内をして、手術・手技に触れてもらうという手順です。最初の手術を体験する機会が減れば、おのずと外科医の志望者も減っていきます。

手術体験セミナーを開催するだけでは、外科を選んでも他の医局に流れてしまう可能性があります。学生に「産業医科大学医学部第一外科に行きたい」と思わせる決め手とは?

山口 手術を体験させるだけでは、「面白かった」という感想しか持ってくれません。第一外科の医局に来てもらうには、"この医局に行きたい"と思わせる仕掛けが必要です。ここでは非常に地道な部分で、「何かこれだけをやれば大丈夫」という秘策のない分野ですね。たとえば研究会が終わったあと近くの焼鳥屋に連れて行って外科の魅力を語ったり、腹腔鏡の模擬体験セミナーを開いた後に焼肉をふるまったり、といった具合です。

医局費がかさむ割には、効果が見えにくい気がします。

山口 そうでもありません。以前勤めていた病院の医局でこれまでの入局者の傾向値を調べたところ、医局長が医学生勧誘のために使った金額と入局者数がほぼ相関関係にありました。つまり、医局がお金を使って医学生とコミュニケーションを取るほど、学生たちはその科に興味が湧いてくるのです。当然ですね。ヒトは親近感を持てないところに身を置こうなんて思わないですから。

 医学生と親密なコミュニケ―ションを図るのであれば、学会は絶好の場です。たとえば消化器病学会の九州支部例会には、医学生が発表できる場面があります。興味のある学生を募って、2~3人発表させるのです。そもそも医学生の発表者が少ないので、数分の1の確率で賞をもらえます。そういう体験があれば、学生のモチベーションも高まります。今年は長崎で開かれたので、現地で1泊しました。旅費はすべて医局が負担しています。夜の時間を使って消化器にまつわる外科の状況を話せば、「この医局にいればたくさん学ぶことができる」と感じます。医局に親近感を持ってもらうため、なるべく医学生と年の近い外科医と交流させています。

 このような取り組みは、本当に効果を生んでいるのか分かりませんが、少なくとも入局者の数は減っていないし、学生にとってデメリットがあることではないので、今後も続けていこうと思っています。

一方で、若手外科医が入局したあとの教育体制について教えてください。

山口 基本的に医学生に対するスタンスと何ら変わりはありません。まず、若手外科医にも執刀医としてできるだけ手術をさせています。第一外科医局の目安としては、卒後4年目程度から単孔式の腹腔鏡手術ができるよう指導しています。手術がしたくて外科を選んだ医師ばかりなので、やはり実際に執刀することが何よりも大切だと思っています。

 次に、若手外科医とのコミュニケーションとして、医局旅行や食事会などを定期的に行っています。また、医局員を年に2回、私の自宅に招いています。これは、私の妻の協力が欠かせません(笑)。実際に膝を突き合わせて食事を取ることと、ある程度プライベートな部分も公開して胸襟を開いた話をしなければ、チームの一員として活動するのは難しいでしょうね。こういった付き合い方は、昔からそれほど変化していないと思います。

 若手医局員の教育も、手技とコミュニケーションを重視しているのですね。

山口 このやり方がいいのか分かりませんが、医局内でのコミュニケーションはとても重要だと思っています。たとえば医局では12月の仕事納めに、今年の医局の10大ニュースを募集して、医局員やスタッフに投票してもらいます。そこで「手術頑張ったで賞」や「学会発表頑張ったで賞」などを決めて、金一封を手渡しています。ゲーム感覚でも、自分が評価されるのは気持ちがいいものです。

 あと、医局員が書いた論文の査読も1~2日で終えるようにしていますし、英文添削料や別冊代も出しています。紙上に発表された論文には報奨金も付けています。とにかく評価され、意見が言いやすい職場環境を作れば、ほとんどの不満は解消できると思っています。

 医局員は、教授や医局長と親密なうえに、手厚い教育を受けていますね。

山口 その割には手術に忙しくて論文の数は増えないのが悩みでもありますが(笑)。大事なことは、とにかく若手の医師や医学生と双方向のコミュニケーションを取ることだと思っています。年配の外科医から一方的に伝達するだけではなく、若手がやりたいことや、やってほしいことに耳を傾け、積極的に受け入れる気持ちが重要だと思います。

若手外科医インタビュー

写真:インタビューの様子
  • 左 厚井志郎医師(30歳)
  • 右 矢吹 慶医師(28歳)
外科医を選んだ理由を教えてください

厚井 父親が内科医で、医師を目指すことにあまり抵抗がありませんでした。臨床研修で他の病院を回っていると、どこも外科医がアクティブに動き回っていました。全身をくまなく診られることと、チーム医療の指揮官としての役割を担えることに、やりがいを感じて外科を選びました。特に周りから反対されることもなかったですね。父親も「自分のやりたいことをやればいい」と応援してくれました。

外科医の魅力とは?

矢吹 診療の際に全身を診られることと、手技や器械の進歩を間近に体験できることです。特に開腹手術を見たあと、腹腔鏡による単孔式の手術を見た時は衝撃的でした。通常の開腹手術は30 ~ 40センチの傷が残ってしまいますが、単孔式の場合はほんの数センチです。傷が少ないので患者の回復も早く、喜んで退院する顔を見ていると、手術に関わっていなくても、こちらまで嬉しい気持ちになります。

外科医としてのQOL(生活の質)には満足していますか?

厚井 マスコミや伝聞で聞くほど、外科医のQOLはひどくないというのが実感です。特にマスコミは少し情報がオーバーな気がします。確かに、中には身を粉にして働く尊い外科医もいると思いますが、365日ずっと忙しい訳じゃない気がします。

外科医になったものの、最初は手術をさせない方針の医局もあるようです。

厚井 自分が術者になってみると、先輩の執刀を見ているだけでも十分勉強になることが分かりました。見て学ぶということは外科医にとっても大事なことだと思います。

矢吹 特に腹腔鏡の手術の場合、カメラの映像をテレビ画面に映しますので、術者と同じ術野を共有しています。鉤引きだけだとしても、「自分ならこう切るな」と想像しながら見学するのも興味深いです。

インタビューにお答えいただいた先生のご紹介

大学医局紹介 Vol.3 産業医科大学

写真:山口 幸二 先生

産業医科大学医学部
第一外科教授

山口 幸二 先生

昭和53年6月 九州大学医学部第一外科入局
平成2年4月 九州大学医学部第一外科助手
平成4年4月 アメリカ合衆国ピッツバーグ大学(外科)留学
平成6年4月 九州大学医学部附属病院第一外科助手
平成6年5月 九州大学医学部附属病院(第一外科)助手講師
平成9年6月 九州大学医学部附属病院(第一外科)講師
平成14年4月 九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科学助教授
平成19年4月 九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科学准教授
平成20年4月 産業医科大学医学部第1外科教授
現在に至る

産業医科大学 医学部

若手医師へ外科医の熱き想いを伝える
~平成23年10月8日に「きみが外科医になる日」セミナーを開催~

NPO法人日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会(略称 若手外科系医師を増やす会)は、平成23年10月8日に、東京都新宿区の京王プラザホテルにおいて、第1回「きみが外科医になる日」セミナーを開催しました。会場には、若手外科医や研修医、医学生など約300人が来場し、講演に耳を傾けていました。

セミナーでは、外科医による講演のほか、実際の手術を体験できる「手術体験ワークショップ」も行われました。ワークショップは、コヴィディエン ジャパン株式会社とジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の協力のもとで開催しました。実際に腹腔鏡下手術で使用する内視鏡器具を使い、内視鏡の映像を頼りにビーズを移動したり糸結びをするものです。セミナー会場では医学生たちが、ワークショップの前に列を作る光景も見られました。

セミナー後には懇親会が開かれ、医療の最前線でメスを振るうベテラン外科医に対し、若手医師たちが熱心に質問する姿が見られました。セミナー終了後に集めたアンケートからも、「外科医の世界を垣間見られてよかった」「最前線の外科治療を聞き、外科に大変興味がわきました」との声が多く寄せられました。会場の様子アンケートの中身の一部を以下に紹介します。

会場の様子

写真:会場の様子 セミナー報告の詳細はこちらをご覧ください。

アンケート

先日のセミナー、すばらしい盛り上がりとなりましたこと、お喜び申し上げます。若輩者の私にお声をかけて頂き、大変光栄でございました。おかげさまで懇親会ではひっきりなしに若い学生さん、研修医の先生から質問を頂き、確かな手応えがございました。今後、自分の発信した内容に責任を持ち、さらに高みを目指す決心です。これからもご指導のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

実は私よりひとつお願いがございます。もしもよろしければ当日の私の講演、できましたらほか6人の先生方の講演記録を頂きたいと存じます。私にとっても非常に大きな刺激となりましたので、今後、手元において苦しい時にはもう一度拝見して叱咤激励を受けたいと思っております。ご検討のほど、何卒よろしくお願いいたします。(セミナー演者 外科医)

先日は大変すばらしいセミナーに感銘を受けました。本当にありがとうございました(後略)。(医学生)

先日のきみ外科セミナーは、盛大な会で大変な盛り上がりでしたね。参加した若き医師の卵たちは、興奮気味でした。前半の講演部分では興奮する話しが連続し、外科系への興味はますます一層深まったと話してくれました。(中略)

後半の懇親会も大盛り上がりでした。美味しいお食事に話しは弾むばかりで、最後も時間めいっぱい、会場でお話しをされていた若き医師、学生さんは、胃袋同様刺激と満足感でおなか一杯だったようです。「楽しかった~」と別れ際に、何人もの学生さん、研修医の若き医師に声をかけられました。本当にありがとうございました。(外科医)

先日は、素晴らしいセミナーに参加させていただき本当にありがとうございました。もしまた機会がありましたら、友人も誘ってまた参加させていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。(医学生)

お世話になります。セミナーに参加させていただきました。私は外科医として18年目となりますが、今回のセミナーを拝聴し大変勉強になりました。それぞれの演者の方々の熱い思いをきくことができ、私としても有意義な時間となりました。また、これからも頑張っていきたいと思います。有難うございました。(外科医)

ご丁寧にありがとうございました。我々が何のために仕事をしているのかを思い出させてくれる大変良い会だったと思います。これからも、この尊い趣旨の活動を可能な限り応援させていただきます。(協力企業)