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2012年04月

今号の内容

大学医局紹介 慶應義塾大学

慶應義塾大学医学部の一般・消化器外科では、手術のスキルを身につけられる多様なプログラムを用意したことが功を奏し、毎年の入局者が15~20名ほどと安定している。また、関連病院との強い連携にも、外科医育成のヒントがあるようだ。

平成24年度診療報酬改定のポイント

平成24年度の診療報酬改定では、腹腔鏡下手術のうち37手術が保険導入されたほか、頭蓋内腫瘍摘出術など約1200項目の手術料が引き上げられた。手術料のプラス改定に貢献した外保連の視点から、会長の山口俊晴先生が要点を解説する。

インタビューにお答えいただいた先生のご紹介

略歴やお写真のご紹介をしております。

大学医局紹介 Vol.4 慶應義塾大学

~ 関連病院との強いタッグでブランドを築く ~

慶應義塾大学医学部の外科医志望者の状況を教えてください。

北川雄光先生(以下北川) 外科全体の入室者は20数名、一般・消化器外科では15~20名ほどで安定しています。新しい臨床研修制度が始まってから、外科の志望者がやや減っていた時期もありましたが、ここ数年は回復してきました。きちんと統計を取ったわけではありませんが、大都市部の私大や国立大の医学部は、外科医志望者が一時期より増えた印象があります。

慶應義塾大学医学部で外科を選ぶ初期研修医数が安定している理由は?

北川 理由は大きく2つあると思います。1つは大都市出身で地方大学で勉強した医師が、研修医として大都市に戻ってきている可能性があります。もう1つは、関連病院との連携が取れているので、外科医のキャリアパスを描きやすいという要素があるかもしれません。たとえば地方の大学の医学部出身者が慶應の関連病院で初期研修を受けたとします。
慶應から派遣している外科医と触れ合ってキャリアの積み方を聞き、「私も慶應で外科をやりたい」と思ってくれる研修医が少なからずいます。実際に今の慶應の外科では、慶應医学部出身者と他大学医学部出身者が、2対1ないし半々の割合です。比較的他大学の出身者が多いのが、慶應の外科の特徴です。

研修医がどれだけ慶應出身者の外科医と関連病院で触れ合っても、慶應の外科に魅力がないと志望までは至りません。何か秘訣はありますか?

北川 「慶應で外科技術を学びたい!」と学生や研修医に思わせるには、若手外科医にとって魅力的なスキルアップの仕組みが必須です。 そのカギは「柔軟な教育プログラムの提示」だと思います。

たとえば医学部を卒業したての医師は、「外科に行く!」と決めていたとしても、自分が消化器に向いているのか心臓血管外科に向いているのか判断がつかないことがあります。 そこで慶應では後期研修中(卒後4~5年目)に、どの分野に行くのか自由に決められるようにしています。

写真:慶應義塾大学 外観

研修医に選択の自由があると好きな技術だけを学んでしまい、外科医として必須のスキルが抜け落ちる可能性があります。そこはどうフォローしていますか?

北川 研修医が自由に選べるのは臓器別の「分野」だけです。教室では、研修医に実力をつけてもらうための教育プログラムを3つ用意しています。

1つは臨床研修を先にやってリサーチに取り組むパターンです。卒後の医師には、初期研修2年と後期研修2年で、外科専門医に必要な技術や症例をみっちりと習得してもらいます。 5年目は病棟の医師として勤務した後、6年目は病棟を離れて自分の技術を磨きつつ研究に打ち込む。7年目はチーフレジデントになって、バリバリと手術をこなしてもらう、というコースです。これを選択する外科医が一番多いです。

もう1つは大学院に行くコース。5年目までは最初のコースと同じですが、6~7年目は研究に専念してもらいます。場合によっては基礎研究室に出向し、相当レベルの高い研究にチャレンジしたあと、8年目にチーフレジデントになるコースです。

また、「がんプロフェッショナル養成コース大学院」もあります。がんをトータルで把握できるようになるため、6年目に外科の枠を超えて放射線科や血液内科、緩和医療、病理学などを横断的に学んでもらうものです。 当然、各科の専門知識も取得できます。卒後7年目には、静岡がんセンターなど最先端の地域がんセンターに出向してがん専門施設の特徴的な診療を学び、慶應に戻ってチーフレジデントになるというものです。

3つの教育プログラムにそれぞれ特徴がはっきりしています。どのコースも「オールマイティな一般・消化器外科医を作る」という基本概念に基づいています。

「オールマイティな外科医」は理想ですが、一方で「一部の専門的な手技をとことんレベルアップしてこその外科医」という教育方針の教室もあります。

北川 その通りだと思います。個人的には、30代の前半で外科医として圧倒的な経験がないと、外科医としてより高いレベルにいけないと思っています。 チーフレジデントになれば、外科医として一通りのことができるようにはなるものの、「指導医がいてこそ手術ができる」状態であることは否めません。 そこで、卒後8年目以降に症例数の多い関連病院「ハイボリュームセンター」へ派遣し、年間300~400の手術を経験してもらっています。 「外科医として一人前だ」と胸を張れるには、ひたすら手術をこなすしかないと思っています。 自ら指導医となる環境でひたすら多くの手術を与えられれば外科医は奮起するし、その実績が自信へとつながります。

すべての外科医がそれほどの数の手術をこなすのですか?

北川 なるべく全員に経験してもらいたいとは思っています。ただしこのハイボリュームセンターへの派遣にも問題点があります。 慶應からの外科医を受け入れる関連病院は、2年ごとに新しい外科医を受け入れなければならないので、どうしても負担が大きくなってしまうのです。 関連病院だけが負担を強いられる仕組みでは、いい循環が決して生まれません。関連病院とは、あくまで"関連"であり"分院"ではないのです。 そこには「持ちつ持たれつ」の関係が必要です。

慶應の関連病院では、外科希望の初期研修医がいる場合には、あえてその病院の外科後期研修プログラムではなく、慶應外科への入室を勧めてくれます。 外科を目指す若手が大学で研究したり海外留学したりすることで、より視野の広いAcademic surgeonに成長する機会を与えるのが目的です。 一方我々大学側も、こうした教育プログラムで育成した優秀な人材を関連病院に指導者として積極的に派遣します。 互いに支え合いながら人的交流を常に流動的に保つことで、慶應ネットワーク全体が活性化して発展していくシステムを取っています。

新しい臨床研修制度が始まる以前の医局は、強い権限で外科医たちを関連病院に派遣していました。慶應が実践する外科医教育は、それを踏襲しているのですか?

北川 かつての医局人事と決定的に違うのは、外科医が「慶應の教室にいて良かった」と思えるような循環にしている点だと思います。 何しろ医局に強制力がありませんから、「あの関連病院で外科医が足りないからとにかく行け」では解決しません。 逆に、外科医がいい関連病院でいいトレーニングを積めるよう、それぞれ希望のキャリアパスが実現できるよう工夫しています。 医局のメリットというより、「外科医や関連病院がどうやったら満足してくれるのか?」という発想からスタートしています。

失礼ですが「慶應ブランド」があるので、外科医を集めるのにそれほど苦労をしていない印象がありました。

北川 私たちの先輩が築いてきた「慶應ブランド」が大きな要因であることは確かですが、決して過去の実績に胡坐をかいているわけではありません。 常に危機感を持ち、毎年「来年の入室者はどうだろう」と不安な気持ちを持ち続けています。 かつて、福島県で産科を巡る騒動があった際、それまでは潤沢だった慶應の産科医希望者が激減しました。 社会情勢の変化やマスコミの報道1つで、外科医の志望者が大きく落ち込むことは想像に難くありません。 「外科の医局は何もしなくても応募者が多かった」というのは昔の話で、今は何もしなければ応募は一人も来ない可能性だってあるのです。

他の外科系医局と同様、慶應の外科医採用担当も研修医を集めるために泥臭い取り組みもしています。 学生と年齢が近い外科医をピックアップして、ポリクリをマンツーマンで指導させたり、「外科達人への道」と題した医学生向けの実習会を開き、結紮の仕方や内視鏡の使い方を教えたりしています。 外科医の魅力を感じてもらうのは、やはり実際の手術を見てもらい、体験してもらうしかないと思います。 時には医学生を私の自宅に招くこともあります。やはり教える側を身近に感じてもらうことが大切です。

若手の医局員に対しても、なるべくコミュニケーションを取るようにしています。研修医には、研究に入る前にまず手術をたくさん経験させて、外科医の醍醐味を体感してもらうことにしています。 外科研修医のモチベーションを大きく上げるには、実際に手術をしてもらうしかないと思います。 また教室全員に卒後アンケートを毎年実施し、「親が年老いたので、実家の近くに戻って勤めたい」とか「今の病院ではスキルアップのチャンスが少なくてやる気が落ちている」といった声一つひとつに対し、要望がかなうように配慮しています。

若手外科医インタビュー

写真:インタビューの様子
  • 左 新原正大医師(31)
  • 中 星野好則医師(32)
  • 右 筒井麻衣医師(30)
外科を選んだきっかけを教えてください

新原 小さいころに漫画で読んだブラック・ジャック(手塚治虫著)を読んで「医師ってかっこいいなあ」と思ったのがきっかけです。医学部に入り、外科を選択したのは自然な流れでした。現在はがんプロフェッショナルを目指して、外科の分野にこだわらずにさまざまな科でトレーニングし、スキルアップを図っています。

外科医が苦労する点と、外科の魅力とは?

星野 外科医というと「孤高」というイメージがつきまといます。「患者さんの命がかかっているかと思うと、メスを握れない」という医学生の声を聞いたこともあります。確かにそういった側面もありますが、実は「患者さんとともに」手術に挑んでいることを忘れてはなりません。患者さんのベッドサイドにいて、家族同様の付き合いをしていると、「疾病に立ち向かっているのは外科医だけではない」ことを思い知らされます。患者さんが無事に退院した時は、「外科医になって良かった」としみじみ思います。

今後のキャリアプランについて教えてください

筒井 40 ~ 50 代になっても最前線で働けることに魅力を感じて外科医になりました。今は自分のことだけを考えて必死でスキルアップを図りたいです。出産や育児のことを考えて外科以外の道を選ぼうとすると何もできなくなるので、今はとにかく目の前のことだけに専念したいと思っています。実際、一人前の外科医になるための道のりは長いので、余計なことを考える時間はないと思っています。

平成24年度診療報酬改定のポイントと外科医を取り巻く環境

診療報酬改定

診療報酬が全体としてややプラス改定となった。個人的な満足度は80 点だ。合格点と言えるのは、やはり外科医の手技を高く評価してくれたからだ。

外保連は2 年に1 度、診療報酬改定に合わせて、厚労省に「改正要望書」を提出している。これは、外保連の加盟学会が特に保険収載を希望している新規技術などをまとめたものだ。この要望書の中から減圧開頭術や腹腔鏡下胃、十二指腸潰瘍穿孔縫合術など、かなりの数の術式の手術料が引き上げられた。

今回、外保連が提案したもののうち多数の手術料が引き上げられた背景には、外保連なりの試みもあった。普段は臨床の現場に立つことが少ない厚労省の担当者にも理解しやすいよう、図版や写真を多用して、カラーで印刷したものを提出した。専門家ではない担当者でも理解しやすい配慮をしたことが、少なからず奏功したと思う。

外保連の役割

外保連の役割の1 つは、実際の臨床現場の実態を調査してデータを取りまとめ、それを政府や国民に分かりやすく伝えていくことだ。「外科分野における診療報酬の引き上げを目指す」ことは重要だが、" 診療報酬の要求だけ"の団体であってはならないと思う。診療報酬の引き上げを目的化するのではなく、あくまで「診療報酬の適正化」に主眼を置くことが肝要だ。そのために外保連は、外科の臨床現場における情報を収集して可視化し、コストの内訳をできる限り明確にしていくという地道な作業を続けている。そういったデータを外保連が蓄積することで、医療行政と臨床現場の双方にとってメリットがある情報を提供し続けられる。

たとえば現在の診療報酬には、手術に使用する「材料費」と、手術料の「技術料」が混在している。その結果、手術の安全面や効率性から優れたディスポーザブルの材料や器械が使われるようになるにつれて、それら材料費の占める割合が高くなり、結果的に技術料が低く評価されるようになってしまうことになる。外保連が各学会から集められたデータを元に、「材料費」と「技術料」を明確に区分できれば、自ずと適正な診療報酬が見えてくる。

ただし、材料費と技術料を明確に分ける作業には時間もコストもかかる。また症例数の少ない術式に関しては情報が少ないため、合理的な数値を示しにくい。その上、手術にかかる時間や必要人数などは、数年で状況が一変することも珍しくない。開発当初は難易度が高く、専門施設や大学病院などで行うのが一般的な手術も、術式の普及と技術の向上によって一般病院で行われるケースもある。したがって、外保連が「手術の適正評価」を訴えるには、これらの情報を数年おきにアップデートしなければならない。

外科医の待遇改善

「手術の適正評価」を訴える目的の1つは、外科医の待遇改善だ。外科医にとって最もいい環境とは「手術に専念できること」だと考える。つまり、最善の治療を行うことだけを考えて道具を選び、数多くの症例をこなして手術の腕を磨けることこそ、外科医にとっての理想の世界だ。その状況を作り上げるに解決すべき問題の一つが手術に関するコストである。

難しい手術は一般的に、手間がかかる割に診療報酬が低いことが多い。「病院の上に貢献しない」「合併症のリスクが高いからつきっきりで患者を診ろ」「だがあまり超過勤務をするな」となると、誰も難易度の高い手術にチャレンジしようと思わなくなる。また、麻酔科医の動向も見逃せない。手術の数に比例して麻酔科医の数も伸びないと、麻酔科医不足がボトルネックとなって手術ができないことになる。ましてや外科医が麻酔科医の代わりに麻酔をかけるようでは本末転倒だ。外科医が満足して手術をこなすためには、それに見合った麻酔科医が必要なことは明白だが、実際にそこまで十分に確保できている医療機関は、それほど多くないのが現状だ。

通常は仕事が多くなると根をあげるものだが、外科医は手術が少なくて不満を言うケースの方が圧倒的に多い。急性期病院にとってのエンジンはやはり手術室であり、それを活用するためにあらゆる手を打たなければ、外科医の待遇も医療機関の収益も改善しないだろう。

平成24年度診療報酬改定のポイント

図 平成24 年度診療報酬改定の概要

平成24年度の診療報酬改定では、全体改定率がプラス0.004%と微増にとどまった。だが、診療報酬だけを見ると1.38%(約5500億円)のプラス改定で、代わりに薬価や材料費が-1.38%(約-5500億円)と引き下げられた。診療報酬の内訳をみると、医科が1.55%(約4700億円)のプラス、歯科が1.70%(約500億円)のプラス、調剤が0.46%(約300億円)のプラスとなった(図参照)。

診療報酬改定のうち、外科関連部分については大きく3点が変更となった。

1)医療技術の評価及び再評価

新しい医療技術128件を保険導入し、既存技術150件について対象疾患の拡大や評価の引き上げを行う。たとえば腹腔鏡下手術のうち、37手術が保険導入される。

2)手術料の引き上げ

「外保連試案第8版」の技術度・協力者数・時間に基づき、頭蓋内腫瘍摘出術、肝切除術、肺悪性腫瘍手術など約1200項目の手術について、難易度C・Dは最大で30%、難易度Eは最大で50%、手術料が引き上げられる。

3)先進医療からの保険導入

肝切除術における画像支援ナビゲーションや内視鏡的大腸粘膜下層剥離術など23の技術について保険導入を行う。

インタビューにお答えいただいた先生のご紹介

大学医局紹介 Vol.4 慶應義塾大学

写真:北川 雄光 先生

慶應義塾大学医学部
外科学教授(一般・消化器外科)
副病院長・腫瘍センター長

北川 雄光 先生

慶應義塾大学医学部

平成24年度診療報酬改定のポイントと外科医を取り巻く環境

写真:山口 俊晴 先生

外科系学会社会保険委員会連合(外保連)会長
がん研有明病院 副院長・消化器センター長

山口 俊晴 先生