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2015年夏号

今号の内容

Feature
労働環境の整備と新専門医制度への対応が課題

この数年、回復基調にあった外科系診療科への入局者数が再び微減に転じている。一般社団法人 日本外科学会 理事長の國土典宏先生は、外科医の減少に歯止めをかけるべく労働環境の改善と新専門医制度への対応に腐心されている。

Opinion
外科医減少は結果平等主義のひずみ
客観的評価軸の提示で適正な評価を

平成22年度の診療報酬改定は10年ぶりのプラス改定が行われ、なかでも外保連試案に基づいた手術に関する適正評価が目を引いた。当時、厚生労働省保険局医療課課長として改定を指揮した佐藤敏信氏に外科医が減少し続ける現状についてご意見をうかがった。

Feature 

労働環境の整備と新専門医制度への対応が課題

ここ最近の外科系診療科への入局者数の変遷を教えてください。

國土(敬称略)4月に開催された日本外科学会定期学術集会の理事長講演でも話しましたが、外科系診療科への入局者数は臨床研修制度がスタートした2004年度に、前年の半分以下に落ち込みました。これは入局時期が2年後ろにずれたためで、制度上の問題だったと言えます。期待された2年後からの回復歩調がかなり遅かったのは事実ですが、厚生労働省が公表している後期研修医の入局状況をみると、直近の過去5年間は毎年900名前後、全研修医の約1割が外科系の医局に入局しています。

しかし、入局者数が横ばいから微減状態であること以上に危機感を持っているのは、20代の外科医が減っている点です(図1,図2)。日本社会も高齢化していますが、外科医の高齢化も進んでいます。2012年度の厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査でも20代が減って40代、50代が主力になっている傾向がみてとれます(図2)。僕らの世代からちょっと下の世代までですよね。今現在、中核を担っている40~50代が一線を退く10年後、20年後を想像すると、これは非常に憂慮すべき事態だと言えます。

表 佐賀大学医学部附属病院のインセンティブ手当(2012年度) 表 佐賀大学医学部附属病院のインセンティブ手当(2012年度)
外科学会として外科医をサポートするために、どのようなアクションを起こしているのでしょうか。

國土今現在は、外科医を取り巻く労働環境に関する整備、提言と新専門医制度への対応ですね。特に専門医制度に関しては2016年度から前倒しで更新が始まるので、移行期間中の更新基準や研修プログラム整備基準の策定などの準備に大わらわです。専門医制度は当初、医師の偏在を解消したい行政側の思惑が見え隠れし、各方面から反発の声があがりました。医師の選択はあくまでもProfessional Autonomyに依るべきもので、強制は望ましくないと考えます。もちろん我々も医師が都市部へ集中することを良しとしているわけではなく、地域医療・連携確保という視点から研修プログラム認定要件を柔軟に検討するなどの対応を考えています。

労働環境の整備という面では、2010年度、2012年度の2回の診療報酬改定時に一般社団法人 外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の試案(8版)の技術度・協力者数・時間に基づき、約1200項目手術について、難易度C/Dでは最大30%、難易度Eは最大で50%の診療報酬の引き上げが行われました。また、2014年度改訂では、1000点以上の手術と処置について「休日・時間外・深夜加算1」が新設され、一定条件下での算定が認められました。行政のこうした動きをどう、評価されますか。

國土わずかながらも着実な一歩を踏み出したと思います。ただ「休日・時間外・深夜加算1」は算定可能な施設基準が厳しすぎるので、現在、外科学会としては、これが果たして適切な基準であるのかどうかを調査しているところです。一つ例をあげると、東京大学医学部付属病院のように、内視鏡手術を含めて年間1万5000件以上の定時手術をやっている施設に対しても、算定を届出している診療科全体で年12回しかViolationが許されないのですから現場の実情とはだいぶ乖離があります。おそらく、予定手術前日の当直免除などの条件を確実にクリアし、加算が算定できる施設はかなり限られるでしょう。今後、根拠となる客観的なデータに基づいた現実的な施設基準の見直しについて行政に働きかけていく予定です。

手術料が引き上げられた際は、現場の医師への還元はあったのでしょうか。

國土外科医労働環境改善委員会で行ったアンケート調査の結果、外科系診療報酬増収分は病院の赤字補填に充てられたとの声が多く、必ずしも外科医に直接的に還元されていない現実が明らかになりました。幸い本院では内科系診療科の理解があり、外科系診療科に対する手当を厚くすることへの反論はありませんでしたが、施設によっては増加分の配分を巡って統一見解を取りにくかったのでしょう。直近の改定にある「休日・時間外・深夜加算1」では、選択制ではありますが、処置の実施に係る医師(術者又は第一助手)の手当支給も施設基準の要件として明記されているので、今後の労働環境改善への動きが注目されます。

日本の外科医を取り巻く環境は激動していますが、外科医の将来像についてどのようにお考えでしょう。

國土元々日本の外科医はAll-round playerであることを求められてきました。ことに地域医療では内科的な診療から救急までをカバーしているケースが少なくありません。癌化学療法も腫瘍内科医ではなく、外科医が中心となって行っている病院も多く存在します。そういう現実を踏まえたうえで、新設される「総合診療専門医」については、内科系医師だけではなく、メスを置いた外科系医師も資格を取得できる道筋を容認するべきだと思います。地域プライマリケアを支える外科系医師が居なくなるのは問題ですから。

また、米国でいうHospitalist――入院患者に特化して重症患者への対応もできる医療スペシャリティがあっても良いと思いますね。ICUなどの管理を一手に担う一方で、定時帰宅が叶うなど医師側のメリットもあります。さらに、一定レベルの医療介入を自律的に行うナースプラクティショナーを養成する研修制度が実現化に向けて動き始めていることで、多職種のサポートを受けながら手術に専念できる環境整備も期待されます。Hospitalistなどいわゆる複数種類の医師のキャリアを策定することに関しては慎重な議論が必要だと思いますが、たとえば女性外科医のキャリア・パスを考えるうえでも働き方の多様性は広がっても良いのではないでしょうか。

外科医の魅力とは何でしょうか。

國土やはり「やりがい」でしょう。どういう時にやりがいを感じるかというのは人それぞれですが、私個人として一番うれしいのは「先生に手術をしてもらってから、10年経ちましたよ!本当に先生に手術をしてもらって良かった」という言葉ですね。若い頃は重症で担ぎ込まれて来た人を一所懸命手術して、治して家に帰すという成功体験をいくつも経験し、その度に外科医をやっていて良かったなぁと思いを強くしました。未だに退院していかれる際に「先生、ありがとう」と一言をかけていただけると喜びが沸き上ってきます。その経験があるからこそ、キツい職場だと言われながらも、みな外科医を続けられるのでしょうね。

やりがいやうれしさ、患者・家族からの感謝を身近に感じられるのが外科医の醍醐味ですね。それを知らずに医師人生を送るのがもったいないくらいです。

國土本当にその通りです。確かに学生時代は実習期間も短いので入院患者さんが元気になって退院する姿を目の当りにする機会は少ないかもしれません。でも小さな成功体験は日々、たくさんあるはずです。若手の先生にもぜひ、この喜びを経験して欲しいですね。

写真:教授 國土 典宏 先生

一般社団法人 日本外科学会 理事長
東京大学大学院医学系研究科外科学専攻
肝胆膵外科学・人工臓器移植外科学分野

教授 國土 典宏 先生

1981年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院第二外科入局。癌研究会付属病院消化器外科医長を経て、2007年より東京大学大学院医学系研究科外科学専攻臓器病態外科学教授。2012年日本外科学会理事長就任、2015年4月より東京大学大学院医学系研究科外科学専攻長。

Opinion 

外科医減少は結果平等主義のひずみ
客観的評価軸の提示で適正な評価を

 個人的には、戦後の日本の考え方の底流とも言える「結果の平等」のひずみが、外科医の減少というシンボリックな形で表れたなと思います。医療現場にも卒業年次だけを評価軸とした公務員型・年功序列の給与体系という結果の平等がある。それでも一昔前までは善し悪しは別として、種々の謝礼や敬意など有形無形の代償があり、それなりに相殺されていました。しかし、そうした東洋的な知恵も、時代が進むに連れて、具体的には1990年頃から西洋的な価値観が絶対的なものとして浸透する中で、一切不道徳なものとして排除されてしまいます。その結果、外科の現場は辛く、その苦労の割には報いの少ないものになってしまいました。

 一方、日本の診療報酬体系の中では、医師の診断能力や適正な治療方針を立てる能力、手術に関する経験値など無形の能力や技術をなかなか数値化できない時代が続きました。そうした中で、手術については、山口俊晴先生、岩中督先生をはじめ外保連(一般社団法人 外科系社会保険委員会連合)加盟学会の先生方の尽力で、「外保連試算」を根拠にしたコスト計算ができるようになりました。厚生労働省保険局も、そうしたデータを最大限に活用することで、合理的な診療報酬体系として精緻化することができたのです。Professionalとしての有り様を示してくださったお二人には心から敬意を表します。

公務員型給与体系の限界と働き方の多様性の追求

 私自身は平成22年度の診療報酬改定時において、病院のマネジメントサイドへ一つのメッセージを送ったつもりです。つまり「国(=厚生労働省を始めとする政府)は、勤務医対策や外科医への配分を明確にし、一定の対応を行ったのだから、次は病院長、事務長の皆様にその成果を還元していただく番だ」と。まぁ、公務員型給与体系が厳然と残る国公立・公的病院での実行が難しいのは予想のとおりではありました。民間の医療法人でも、他科とのバランスを考えるのか、特定の科の医師の給与にメリハリを付けるかどうかについてはまだまだ思案中というところが多いのではないでしょうか。何も手術料の相当部分を給与に上乗せしろということではありません。金額の多寡でなく「評価する」というちょっとした気遣いが外科医のモチベーションに大きな差を生むのではないかと思います。

 先ほどの話を蒸し返しますと、医師のような高度技術職に公務員型・年功序列型の給与体系は適さないでしょう。Y軸が給与額、X軸が卒業後の期間とすれば、若手~中堅の生産性が高い年代にピークがある凸型の放物線が望ましいですし、放物線の軌道は診療科ごとに、働き方ごとに何本もあっていい。米国流に外科医になったら休暇の度にカリブ海でトローリングして別荘を所有して、とまで行かずとも、外科医はそれなりの収入を伴う素晴らしい職業となれば、自動的に他科ではなく外科を目指すモチベーションになるでしょう。

 一方で女性外科医の活用にも通じますが、常勤医の定義を変えるという方法論も考えられます。育児のためにコアタイムの10時~16時しか働けないとしても、そうした方を常勤と見なして社会保険も完備する。企業で言う短時間正社員制度の徹底ですね。医師の三交代制などももっと本格的に取り入れるべきです。
それ以外にも、私自身は「shot works」と呼んでいるのですが、個々の医師の都合に合わせて、この日のこの時間なら勤務できるなどピンポイントで働く方法があっていい。一方で胸部レントゲン写真の読影など、自宅でもできる業務については在宅勤務を認めるなど働き方を多様化するべきです。

医師は貴重な資源であり、社会貢献が求められる

 外科医に限らず医師は育成に何年もの時間と多額の税金が投入される貴重な社会資源です。である以上、市場原理に沿った職業選択の自由がある一方で、社会貢献が求められます。そうした意味でも、医師の適正配置に関する議論は避けられませんが、従来の日本には何が「適正」かを評価し、議論する土台すらなかった。しかしこの数年、外保連試案による手術の適正評価や第三者機関による専門医認定制度の発足、またNational Clinical Database(NCD)の立ち上げなど医師の技術と能力を適正かつ客観的に評価する基盤作りが進みました。医師も個々人の技量を担保したうえで同じ土俵で公平に競争する時代に入ったのだと思います。特にNCDは偉業ですよ。外科関連の専門医の適正配置を考えるうえで現状の把握は必須ですし、何よりこれだけのデータを集積できる日本の外科の凄みを示しました。もっと注目されていいと思いますね。

写真:医学博士 佐藤敏信 先生

日本医師会総合政策研究機構
主席研究員

医学博士 佐藤敏信 先生

1983年山口大学医学部卒業。同年厚生省入省、大分県保健環境部健康対策課長、岩手県保健福祉部長、厚生労働省雇用均等児童家庭局母子保健課長、同省医政局指導課長、同省保険局医療課長などを歴任。
その後、同省健康局長を経て2014 年より現職。