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2016年冬号

今号の内容

Feature
NCD*データを根拠とした提言が可能に
外保連試案とともに診療報酬に反映を

外科の診療報酬の抱える課題と、若手外科医を増やしていく必要性について、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の会長であり、埼玉県立小児医療センター病院長の岩中督先生に現状と将来展望をうかがった。

Cheer
1つの山を乗り越える醍醐味を味わって

他診療科の医師や医療スタッフから外科医へのエールをお届けする。外科系専門医は他診療科からどう見られているのか、また何を期待されているのか、外科医を目指す医学生や若手の医師に読んでいただきたいコーナー。今回は、聖路加国際病院の角田博子先生からエールをいただいた。

Feature

NCDデータを根拠とした提言が可能に
外保連試案とともに診療報酬に反映を

2011年1月に運用が始まったNational Clinical Database(以下、NCD)も5年目に入りました。累積データ件数など現状をお教えください。

岩中(敬称略)現在、参加診療科数は全国6000診療科、手術情報登録数は560万件を超えました。先行していた心臓血管外科領域、消化器外科領域では手術症例Databaseを活用した後ろ向き研究や、登録項目を追加して実施する前向き臨床研究、医療機器の市販後調査などが行われています。今後はビッグデータを活用した領域横断的な臨床研究が増えてくるでしょう。

何よりNCD開設時からの目的だった医療水準の改善に向けた臨床現場へのフィードバックが本格化し始めました。消化器領域では胃全摘術など代表的な8術式について、術後30日死亡率や手術死亡率に関するリスクモデルを構築し、それをもとにした「Risk Calculator」の運用を2014年度から実施しています(図参照)。手術対象者の年齢、既往歴などの背景と検査情報などの術前情報をWeb上で入力すると、術後30日死亡率や術後合併症リスクが表示されます。個々の患者に対し、客観的かつ信頼できるデータに基づくインフォームドコンセントを行うことが可能になりました。

Feature NCDデータを根拠とした提言が可能に外保連試案とともに診療報酬に反映を

もうひとつは、個々の施設の医療の質――死亡率や合併症発生率などを継続的に検討できる「Benchmarking」機能の提供です。リスク調整済みのアウトカムの算出やガイドライン等に沿った治療の実施率などのプロセス指標を参照し、自施設の成績を全国平均と比較できるので、標準治療からの極端な逸脱や周術期管理の不備も如実にわかります。施設側が積極的にNCDデータを活用することが前提ですが、心臓血管外科領域ではもう一歩踏み込んで、治療成績が芳しくない施設に学会から指導医が赴き、原因を解明するとともに改善案を施設側とディスカッションする試みも始まりました。医療水準の改善は必然的に臨床現場のコスト改善に通じます。従来は施設側にデータ入力の手間をお願いするばかりでしたが、5年目にして臨床現場と経営側の両者に成果を還元できるようになりました。

外保連試案は診療報酬改定時の参照情報として高く評価されていますが、NCDデータを活用した診療報酬改定への提言は行われていますか。

岩中ひとつ面白い例を紹介しましょう。先般、日本外科学会の企画として東京大学 胃食道・乳腺内分泌外科教授の瀬戸泰之先生を中心に消化器外科と心臓外科領域の主要手術における、肥満と手術時間、出血量、術後死亡との関係について後ろ向き検討を行いました。対象期間は2011~12年、症例数は約28万9000件です。その結果、BMI(体格指数)30以上の肥満者では手術時間が長くなる事が明らかになりました。消化器領域では胃全摘術や膵頭十二指腸切除術、心臓血管領域では大動脈弓部全置換術や左開胸下の下行大動脈置換術においてBMI30未満と比較し、有意に手術時間の延長を認めています。現在、この領域横断的なエビデンスを根拠として「肥満加算」の創設をお願いしているところです。従来は外保連が主張する科学的根拠の提示が難しかったのですが、現在は外保連試案とNCDデータという2つの根拠をもって政策提言や外科医の立場を護るための活動が可能になりました。

外科系診療科の診療報酬については、外保連の要望との間に未だ大きな開きがあります。

岩中外保連試案は2010年の診療報酬改定時に、中央社会保険医療協議会(中医協)の遠藤久夫会長(当時)から診療報酬改定の議論の基礎になる資料としてお墨付きをいただきました。これをきっかけに、さらなる精緻化を目指し定期的に内容の検証、改定を繰り返してきました。昨年、2015年12月18日に発刊した「外保連試案2016」の手術試案はVer.8.3、掲載手術件数は3,386件に上ります。また、処置試案および検査試案はVer.6.2、麻酔試案はVer.1.3です。

ところが、外保連試案の採用により根拠に基づく議論が可能になった一方で、技術の標準化に伴う手術時間の短縮を反映させた結果、2014年度の診療報酬改定では手術料が下がるという事態が生じたのです。特に、時間との競争で母体と新生児を救命する産婦人科領域の帝王切開術で時短努力が評価されないという容認しがたいねじれが起こりました。そのため我々はNCDデータや実態調査の情報を精査したうえで「医療技術の新しい評価軸」を作成、今回の外保連試案にはそれが反映されています。

外保連試案で我々が要望する手術料と実際の診療報酬との間には、1.5~3倍の開きがあります。ただ、2010年、2012年のプラス改定で試案との乖離は改善されつつあります。医療財政が厳しい中で、このくらい評価されているのであれば外科医になろうじゃないか、という若手の医師が増えてくれるかもしれない。人が増えれば労務環境は改善されますから、良い循環が生まれることを期待しています。

労務環境という点では、前回改定で「休日・時間外・深夜加算」が手厚くなりましたが、実際に現場に還元されたのでしょうか。

岩中施設基準が非常に厳しいため、実際に加算を手にした施設はごく少数でした。本来、対象としたかった地域の基幹病院はなかなか施設基準を満たせず、加算を得るには機能を集約化するしかありません。ある種の政策誘導的な加算とも思われます。

ただ実際問題として、同じ術式でも年間の症例数が少ない施設の手術成績が悪いのは事実です。症例数の多さ=成績の良さと皆が経験的に感じていたことがNCDでも客観的に裏付けられています。しかし、闇雲な集約化は地域医療崩壊という副作用を伴います。居住地域によっては緊急搬送に1時間も費やすような事態になりかねず、集約化で施設の成績が向上したとしても意味がありません。したがって、明らかに成績が悪い施設に関しては、学会主導で医療の質の改善を促し、そのうえで搬送時間と救命率との関係や年間症例数が何例以上であれば平均的な治療成績が望めるかなど、NCDデータを根拠として、具体的に診療報酬や地域医療計画へ反映する土壌を創らないといけないと思います。

若手へのメッセージを含め、外保連の今後の取組みを教えていただけますか。

岩中現実として一部の臓器・術式ではある程度の集約化は必要です。それに外科医として働いているからには、皆手術がしたいのです。一定量の手術件数が経験でき、雑事に煩わされることなく手術に専念できる環境があれば喜んで地域に赴くでしょう。医師が楽しく働く環境を整えるには、診療報酬による政策誘導のみでは難しいのです。外保連試案やNCDデータを参照いただき、医師のプロフェッショナルな価値観と科学的根拠に基づいた医療計画を練り、5年後、10年後を見据えた外科医を育成するための基盤を創りたいと思います。

また外保連の会長としてもですが、病院経営に関わる立場からいうと、病院経営における外科医の役割を評価していただけるよう働きかけたいと考えています。技術料をしっかり請求できる外科系診療科は病院経営における稼ぎ頭ですし、他診療科の緊急事態や合併症対策の際にコンサルティング力を発揮し、対応するのも外科医の仕事です。大規模災害時においても、救急対応から麻酔、集中治療管理の基本を身につけている外科医が常駐している安心感・安定感は大きく、病院全体のリスクマネジメント要素です。こうした側面を評価していただけるよう、機会を捉えて発信していきたいと思います。

塩崎恭久厚生労働大臣に要望書を提出

写真:塩崎恭久厚生労働大臣に要望書を提出

去る2015年12月8日、一般社団法人 外科系学会社会保険委員会連合 会長の岩中督先生、一般社団法人 日本外科学会 理事長の國土典宏先生と、当NPO法人理事長の松本晃が、塩崎恭久厚生労働大臣に要望書を提出してまいりました。「要望書には外保連試案を継続して活用していただきたい旨のほか、活用方法に関する提案を記載しています(岩中先生)」。また面談の間に、医療財源の破綻を理由として推し進められている患者申出療養(仮称)に代表される混合診療の問題に触れ、国民皆保険制度を護る外保連としての立場を伝えています。当NPO法人では、今後も外科医の育成と労働環境の改善のために力を尽くしてまいります。

インタビューにお答えいただいた先生

写真:埼玉県立小児医療センター 病院長 岩中 督 先生

一般社団法人 外科系学会社会保険委員会連合(外保連) 会長
一般社団法人 National Clinical Database 代表理事
埼玉県立小児医療センター 病院長
岩中 督 先生

Cheer

1つの山を乗り越える醍醐味を味わって

聖路加国際病院では2005年にブレストセンターが設立され、一人の患者さんを皆で診ていくというチーム医療の体制が確立されています。特に放射線科医は、外科医と常にディスカッションを行い、綿密な治療計画を立て、働く仲間としても非常に近い存在ではないかと思いますが、そんな角田先生から見た外科医の魅力を教えて下さい。

私が外科医の魅力について話すのもの何ですが、外科の醍醐味はやはり「手術」という1つの山があることだと思います。山を患者さんと一緒に乗り越えるために、患者さんの心身の状態はもちろん、家庭環境や生活の状況まで把握し、その後に手術という大きな山に挑む。やっとその山を乗り越えた後にも煩雑な術後管理がありますが、徐々に患者さんが治癒していく過程は壮大な物語ですよね。外科系の診療科はそういう大きなストーリーが他科に比べてはっきりしているのかなと思います。山を乗り越えるプロセスで味わう達成感や充実感はやっぱり独特の魅力があるのではないでしょうか。

最近は検査画像の精度が上がっているので、術後検査の画像から手術の出来が一目でよくわかります。胃切除術後の上部消化管再建術の吻合部がきれいで、通過障害もなく食物が流れていくのを確認すると「うわー!すごい!上手く出来てる」なんて感動しますね。

角田先生は医師になられたときに外科医という選択肢はありましたか?

実は私も学生の頃、外科医になろうかなと考えた時期がありました。形態学が好きだったのとやはり臨床に魅力を感じたのが動機です。ただ残念なことに、その時代はまだ「外科に女は要らない」という風潮が残っていました。散々迷っていた際に、たまたま放射線科の勉強会で指導して下さった先生が「放射線科は男女平等で、スタートラインは一緒だよ」とおっしゃったんですね。そこで最終的には、放射線科を選択しました。幸い、自らの選択に関して一度も後悔していないので、結果的に自分自身の資質に合っていたのでしょう。

その時代からすると今はだいぶ変わったなぁと思います。少子化の昨今「外科に女性は要らない」なんて言っていられないですしね。特に乳腺外科は女性であることが不利になりません。もしかしたら、史上初めて、女性であることがアドバンテージになった外科系の診療科です。「女性の先生でお願いします」っていう方が結構、おられますよ。また乳腺外科は、手術だけではなく腫瘍内科医としての役割も大きな比率を占めているので、仕事の仕方をうまくコントロールしながら家庭との両立が可能だと思います。

角田先生が今まで一緒にお仕事されたの中で、心に残る素晴らしい外科医のエピソードを聞かせてください。また、これから外科医を目指す若者や若い外科医の方々へのエールをお願いいたします。

よく患者目線でとか、患者さんの気持ちを理解してと言われることがありますね。でも、私はある外科医の先生がおっしゃった「どんなことをしても、患者さんと同じ気持ちにはなれないんだよ」という言葉が印象に残っています。同じ気持ちにはなれないということを理解した、そのうえで患者さんと向き合いサポートするんだと。自分に何ができるのか、どういう医療を提供できるのかを天狗にならず、謙虚に考え続けることが大切なのだと思います。

その一方で、あまりに考え過ぎては疲弊してしまいます。まだ若い時期は、技術も技量も追いつかないこともあるでしょう。でも、その段階、段階ごとに外科医を目指した初心を忘れず、何ができるのかを考え、歩んでいってください。拘束時間が長かったり大変かもしれないけれど、勝ち得る喜びや達成感は必ずあると思います。

インタビューにお答えいただいた先生

写真:昭和大学放射線科 客員教授 角田 博子 先生

学校法人 聖路加国際大学 聖路加国際病院
放射線科乳房画像診断室 室長
昭和大学放射線科 客員教授
角田 博子 先生