特定非営利活動法人 日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会(若手外科系医師を増やす会)

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ニュースレター 2018年冬号

今号の内容

インタビュー
外科研修医の「環流」を――大学病院と地域医療の挑戦

深刻化する外科医不足と地方の医師不足を解決すべく、2005年に設立された「京都大学外科交流センター」。大学の枠を超えた外科医育成とキャリア支援を行う同センターの発足に尽力された、京都大学医学部付属病院消化管外科教授の坂井義治先生に、活動の内容と意義および展望について、お話をうかがいました。

Perspective
どうなる?どうする?医師の働き方改革

医師の残業時間規制の在り方など働き方に関する議論が熱い。今後の政策の方向性は?

外科研修医の「環流」を――
大学病院と地域医療の挑戦

深刻化する外科医不足と地方の医師不足を解決すべく、2005年に設立された「京都大学外科交流センター」。大学の枠を超えた外科医育成とキャリア支援を行う同センターの発足に尽力された、京都大学医学部付属病院消化管外科教授の坂井義治先生に、活動の内容と意義および展望について、お話をうかがいました。

――まずは、外科交流センター設立の背景について、お話をお聞かせください。

坂井(敬称略)私が消化管外科教授に着任したのが2005年のことです。その前年の2004年に初期臨床研修制度が開始され、外科は危機感を募らせていました。直接入局の流れが途切れ、他の診療科や病院に卒業生が出てしまうと、外科を担う人材を確保できません。大学に残る研修医や、大学院に戻る人材が減れば教育機関として体を成さず、関連病院の運営も危うくなります。そんな中、呼吸器外科名誉教授の和田洋巳先生が、「既存の京都大学外科同門会を強化し、若手外科医をつなげる組織へと発展させてはどうか」と助言をくださいました。そのアイデアをもとに、若手外科医育成とキャリア支援の拠点としてスタートし、卒業生や関連病院に参加を呼びかけつつ、今日に至っています。

――センターでは、若手の育成と支援のほか、「地域医療の振興」も理念に挙げておられますね。

坂井 義治 先生

坂井新制度下で進路選択の自由度が高まった結果、都市部の中核病院に人気が集中し、大学病院や地方の病院は人材難に陥っています。そこでセンターでは、全国60か所以上ある関連病院・施設と連携し、不均衡を正す人材配置を行っています。登録修練医には進路を第五志望まで書いてもらい、病院の受け入れ人数とすり合わせつつ、「都市中核病院勤務後は、地域中核病院へ」を原則として偏りを防いでいます。

――とはいえ、旧来の「医局長権限で決まる人事」とは大きく趣きが違う印象です。

坂井確かに、専門性の高い中堅以上の医師に対しては病院のニーズを優先しますが、若い医師に対してはできるだけ本人の希望を汲むようにしています。いずれにせよ、センターに連なる病院が「皆で育てる」意識が不可欠です。閉鎖的な縦割りを防ぐべく、透明性を確保して情報を共有することも大事ですね。

――情報共有のために、どのような試みを行っていらっしゃいますか?

坂井年に一度発行される「会報誌」では、会員の履歴や異動情報を載せるほか、優れた論文も紹介します。病院は人材選びの参考になり、若手には刺激になります。数年前からは、学会発表や論文発表において優秀な成果をおさめた個人やチームへの表彰制度も始まりました。センター内の「学術教育委員会」委員長の海道利実准教授の主導で開始したものですが、会員が切磋琢磨し合い、アクティビティを向上させる後押しとなっています。

――センター内には、複数の「委員会」があるのですか。

坂井はい。今述べた「学術教育委員会」は、論文の集計や勉強会の開催によって学術的な知識やスキルの向上を目指します。「キャリアサポート委員会」では、前述の進路希望調査や相談を行います。ほかに、会報誌の作成やホームページの運営を行う広報委員会、センター全体の運営を担う総務委員会、そして「女性勤務医師対策委員会」も設けています。

委員会

――女性勤務医師対策委員会では、どのような活動をしているのでしょう。

坂井外科医志望の女性研修医や学生と、先輩の女性医師との交流をはかり、結婚・出産・育児等のライフイベントを経て仕事を続ける情報を得る機会を設けています。各病院の就労環境の改善も奨励し、女性支援体制の情報もデータベース化して会報誌上で公開しています。これもまた、病院の切磋琢磨につながりますね。

――各委員会の連携により、育成・キャリア支援・病院の発展と、相乗的な作用が起こっていますね。

坂井そうですね。その中で、修練医自身の「つながり」を確保できるのが最大の意義です。初期研修制度開始以前は、大学から大学院へとつながる縦糸と、同学年の外科研修医同士の横糸、双方が緊密でした。しかし、開始以後の若手医師は大学との縁も途切れ、同学年の連帯感も薄くなりがちです。同年代の情報が得づらいため、どうキャリアを積むべきかがわからず不安を覚える若手は少なくありません。

委員会活動

――その新制度時代において、新しいつながりの構築を目指しておられるのでしょうか。

坂井そうです。センターに属する先輩や同年代の活動や進路をつぶさに知ることで、チャレンジ精神も喚起されるでしょう。情報不足な環境で不安になると「今のポジションを守りたい」と感じて一か所にとどまりがちですが、それはアクティビティ低下の元です。会員は視野を広くとれる強みを活かし、果敢に打って出てほしいところです。私自身も、海外を含め10か所以上の病院を経験しましたが、そのつど知識や経験が格段に増え、人との出会いが財産になりました。このように、各人がさまざまな場所でエネルギーを吸収し、次世代に受け渡す拠点となること――人の「環流」とエネルギーの「交流」を促すのが、センターの使命です。

――その働きかけを続けて12年、現在の手ごたえはいかがでしょうか。

坂井今年、登録会員は780名を超えました。新規登録は毎年30人超、京大出身者のみならず、他大学の卒業生も全国から多数参加しています。私の診療科にかぎれば大学院生も、12年前の年1~2人から年10人前後に増加しました。とはいえ、まだ十分とは言えません。大学院には外科の3診療科全体でコンスタントに30人程度は帰ってきてほしいのですが、年次によりバラつきがあるのが課題です。

――課題と言えば、若手外科医の減少は最大の課題ですが、解決策はあるでしょうか。

坂井難しい問題ですね。ワークライフバランスの意識が高まるなか、激務を余儀なくされる外科医になりたがらない若者が増えるのは自然な流れです。しかも、労働に見合う報酬が得られるとも言い難い。とくに大学病院では給与体系が定められており、この壁はなかなか崩せるものではありません。その中で我々が唯一できるのは、現役外科医として「ロールモデル」になることではないでしょうか。若手の声を聞くと、彼らは決して地方に行きたがらないわけではなく、素晴らしい指導者がいればどこへでも行く意欲を持っているとわかります。地方の医師不足という喫緊の課題を超える鍵も、最終的には「人間力」にあると思います。

――坂井先生ご自身が、そのロールモデルに近いようにお見受けしますが……

坂井どうでしょう(笑)。私自身が心がけているのは、手術で人を惹きつける医師でありたいということです。人を感動させるような「美しい」手術をし、「君にもできる、こうすればできる!」と教えていきたいですね。

――そうした高度な技は、「誰でもできる」のですか?

坂井時間をかければできます。実際、私たちの下ではそうした医師が多数育っています。大事なのは、高度で美しい技(ART)と、心(HEART)を併せ持つことです。私は、小説家の城山三郎氏が人格者の条件として語った「高感性・高安定・高淡泊」という言葉を大事にしています。年齢を重ねても感動する心、術中も動揺しない平常心、名誉や地位などに対する恬淡さ。いずれも、ともすれば医師が失いがちな心ですが、これを外科医一人ひとりが堅持し、その背中を後進に見せられれば素晴らしいですね。

――ありがとうございました。

坂井 義治 先生
坂井 義治 先生
京都大学医学部付属病院消化管外科教授
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本内視鏡外科学会 技術認定医

Perspective
どうなる?どうする?医師の働き方改革

医師の残業時間規制の在り方など働き方に関する議論が熱い。今後の政策の方向性は?

超高齢化社会の到来で複合かつ重症疾患を持つ患者が増えている。患者の要求の高まり、医療技術の進歩などで、医師の心身負担は重くなっている。量的(=医師数増加)解決策でカバーするのではなく、質的(=医師の働き方の改善)解決策にシフトすべき時代に来ているのである。当然ながら外科医も例外ではないだろう。『「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」厚生労働省医政局 平成29年4月6日)』において、医師の平均労働時間の分布では全産業とは明らかに異なる分布が認められ、特に週60時間以上勤務する群にも小ピークができている(表1参照)。さらに、他の診療科医師に比較し、外科系医師の週当たりの平均労働時間の長さが明らかとなった(表2参照)。

  • 医師帳の1週間の労働時間の分布
  • 外科系医師の週当たりの平均労働時間の長さ

術後患者呼び出しや緊急手術対応等の診療科特性はあるものの、やりがいを持って長く外科医生活を送ることができるためには、外科医ならではの働き方改革も必要だろう。今、医師の負担軽減の具体案として、更なるクラーク(医師事務作業補助者)の活用やフィジシャン・アシスタント(PA)の導入が提言され始めている。外科系等の労働環境が厳しい診療科を優先して導入し、医師の負担が軽減を目指すことも議論する必要もあるだろう。日本における外科医療の維持・発展を続けるためには、外科医数の量的解決は当然のことながら、働き方という質的解決も同時進行で進めていかなければならない。

裵 英洙
著者プロフィール
裵 英洙
病院経営コンサルティング会社
ハイズ株式会社 代表取締役社長
(医師・医学博士医・MBA)
高知大学医学部客員教授
慶應義塾大学 特任教授
専門領域:医療経営、ヘルスケアビジネス戦略

略歴

平成10年4月
金沢大学医学部附属病院 第一外科(現:心肺総合外科)
平成19年4月
公益財団法人 健康予防医学財団 理事 就任 ※現在に至る
平成21年3月
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)修了
平成21年3月
メディファーム株式会社 代表取締役 就任
平成26年10月
ハイズ株式会社 代表取締役 就任 ※現在に至る
平成28年3月
株式会社ケアネット 社外監査役 就任 ※現在に至る
平成29年4月
高知大学医学部客員教授 就任 ※現在に至る
平成29年10月
慶應義塾大学 特任教授 就任 ※現在に至る

NEWS

外科医を取り巻く環境改善の要望書を提出

1月12日、平成30年度の診療報酬改定での外科の診療報酬の改善を要求すべく、松本晃理事長、國土典宏理事、山口俊晴理事、古川俊治理事が加藤勝信厚生労働大臣を訪問し、外科医を取り巻く環境改善の要望書を提出いたしました。 この活動は当会発足以来診療報酬改定毎に続けており、外科医を取り巻く現状を直接大臣に伝え政策に反映して頂くことを目的としております。一朝一夕に進む問題ではありませんが、今後も地道に訴え続けて参ります。

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