特定非営利活動法人 日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会(若手外科系医師を増やす会)

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ニュースレター 2019年夏号

今号の内容

Meeting Report
外科医の働き方を考える

2019年5月14日、東京會舘(東京都千代田区)にて、令和元年度第1回理事会および「外科医の働き方を考える」をテーマとした講演会・討論会が開催されました。

追悼記事
北島政樹先生

当NPO法人副理事長で国際医療福祉大学副理事長、慶應義塾大学 名誉教授の北島政樹先生が2019年5月21日、心不全によりご逝去されました。

外科医の働き方を考える

迫井 正深 氏
迫井 正深 氏
厚生労働省 大臣官房審議官

不足する外科医、その背景とは

 不足する外科医の現状について、1994年を基準に各診療科の医師数を相対的に比較した場合、多くの診療科では増加傾向にあるものの、産婦人科と外科においては伸び悩んでいるのが現状です。
 若手が外科を選択しない理由として、「コストパフォーマンスが見合わない」「QOLを損なう」「外科は続けにくい道である」などが挙がります。具体的には、「やりがいはあるものの、仕事の量や内容と報酬が見合わない」「かなりの長時間勤務を強いられる」「夜中も緊急等で呼ばれる可能性がある」「最終的なキャリアとしてメスを握り続けている人が少なく、途中で別の道を選んでいる人がいる」など、仕事内容・ワークライフバランス・長期キャリアなどの種々の要因が絡んでいることが考えられます。
 また、2017年10月に日本外科学会男女共同参画委員会/日本女性外科医会の報告において、「キャリア形成に障害となっているもの」として最も多かったのが「労働条件の悪さ」でした。特に、30代~ 40代の割合が高く、若手外科医がキャリアを形成するうえで労働条件がバリアとなっている可能性が窺えます。さらに、医師の働き方改革に関する検討会においても、外科医の6割が週60時間以上、つまり過労死ラインを超えて働いていることが報告されています。さらには14%が90時間以上勤務している実態が指摘されており、実際に医師全体の平均と比較しても、外科医はより長い時間勤務している実態が明らかになっています。つまり、若手外科医を増やすためには、いかに労働時間の適正管理をしていくかが極めて重要なのです。

外科医師確保の鍵は時間管理と女性医師への配慮

 外科医を増やすためには女性医師への配慮も等しく重要です。2016年度厚生労働省による医師・歯科医師・薬剤師調査における医療施設従事医師に占める女性医師の割合は21.1%になっています。同調査における外科の女性医師割合は8.7%にとどまっています。この事実を裏付けるデータとして、「全国外科医仕事と生活の質」調査を見ますと、キャリア形成の障害となっているものとして、「結婚」、「出産・育児」「職場の性差別」「家族の支援のなさ」「配偶者の転勤」等を挙げた割合は女性のほうが高く、働きやすさを実感している女性医師がまだ少ないことが読み取れます。これらの課題に対する支援としては、「職場の意識改革」「多職種への役割分散」「チーム制の導入」「勤務医師労働条件の明確化(労働時間、給与など)」等が重要視されています。医師の働き方改革でも重要事項に掲げている「職場の意識改革」「タスクシフト・シェア」「労務管理の徹底」がここに当てはまります。ぜひ外科系診療科が率先して取り組んでいただきたいと思います。
 その医師の働き方改革の方向性については、勤務医に年1860時間までの労働を強いるかのような報道が一部されていますが、それは間違いです。まず大前提として、5年後の2024年には年960時間以内の労働をベースとして目指します。しかし、急に制限してしまうと地域によっては外科医療を含む地域医療や救急医療が立ち行かなくなり患者さんに不利益が生じてしまう可能性があります。そこで、条件付きでやむを得なく一時的に認める形となっています。もちろん、計画的に労働時間短縮策を実施しているなど各都道府県において厳正に審査したうえでの例外的な認定ですので、いずれの医療機関も労働時間の短縮には全力で取り組んで頂くことになるのです。
 最後に、外科医の先生方には若い人たちに外科医の未来・夢を語っていただきたいです。技術動向や世相により外科医の役割は変わるものであり、外科医には経験年数やキャリアパスに応じたさまざまな立場や選択肢があります。つまり、「外科医とは所与の条件下で最善を尽くす治療医」であり永遠に誇れるものであると私は思います。
 いずれも迫井正深氏は「個人としての意見である」と断ったうえで見解を語りました。

大木 隆生 氏
大木 隆生 氏
東京慈恵医科大学外科学講座Chairman
統括責任者

外科学会はタスクシフティングを推進

 先般、大阪府にて開催された第119回日本外科学会定期学術集会において労働改善委員長の馬場秀夫理事のリーダーシップのもと「外科医にとっての働き方改革」をテーマに特別企画を実施し、株式会社電通において一連の働き方改革の中心を担ってきた執行役員 大内千重子氏が労働環境改革の取り組みに関してお話されました。電通では過去2 年間で実施された取り組みは250施策にもおよび、一連の取組の結果、わずかな売り上げの低下があったものの、時間外労働は以前の半分程度にまで劇的に減少しました。つまり、それまでの業務の中に多くの無駄があったことが明らかになったそうです。現実的な取り組みの進め方やその背景の思いを聞いていますと、外科医の働き方改革のヒントが多く盛り込まれていました。
 次に、医師の働き方改革に関する検討会報告書で示されている「勤務時間の上限水準のイメージ」については注意が必要です。本図において、週1回の「休み」となっている木曜日が一見外勤のアルバイト日であるように捉えられるものの、実は外勤時間は労働時間に含まれます。したがって、外勤を含めると主たる勤務先医療機関で働くことができる時間はその分少なくなる点に留意しなければなりません。
 日本外科学会として医師の働き方改革に関する取り組みの一つとして、特定看護師へのタスクシフティングのさらなる推進を挙げています。外科医が手術に専念できるような体制づくりを目指し、勤務時間は短縮しても手術に割く時間は減らない環境を整備していくことが重要です。具体的には外科術後管理領域に必要な特定行為について、約600時間のパッケージ化をした研修を提供する方針です。従来の特定行為研修は中心静脈カテーテル管理、各種ドレーン管理など個別に受講する必要があり、これが普及の妨げ要因となっていましたが、今回の取り組みにより術後管理の多くの部分を特定看護師に任せられるようになることが期待されます。そして、大学病院や中核病院等が特定行為研修の指定研修機関になることで、認定を受ける看護師は勤務しながら研修を受けることが可能になる予定です。外科学会としてはこれらの施策を通してタスクシフティングを推進し、外科医のインセンティブ付与についても検討を進めながら多面的に外科医の労働環境改善に努めていきたいと考えます。
 また、外科医の働き方に大きな影響を及ぼしている麻酔科医、特にフリーター麻酔科医に関連した問題では、麻酔科医に関する全国実態調査結果をもとに日本麻酔科学会の理事会に適正化と健全化の要請をしました。
 最後に、医師の働き方改革には患者の命がかかわっている視点を忘れてはならないこと念頭におくべきと思います。

北島 政樹 氏
北島 政樹 氏
国際医療福祉大学副理事長
慶應義塾大学 名誉教授

総括:外科医としての嬉しさを伝えていきたい

 これまで移植手術、ロボット手術、がん手術などの執刀をする中で、30数時間を超える手術を経験したことを振り返りますと、働き方改革で外科医が手を置いたら患者は救えなかったと思います。働き方改革においては、患者の不利益にならないことが重要です。
 先日、移植手術1例目で執刀を担当した当時8歳の患者が34歳になり結婚報告を受けました。また、20年前に小児外科手術をした患者が医局に入ったという嬉しいお知らせをもらいました。このようなことがまさに「外科医としての嬉しさ」であり、この気持ちを若手に伝えていきたいと思います。

鴨下一郎氏
鴨下 一郎 氏
衆議院議員

鴨下一郎氏よりコメント

 最後に当会最高顧問、鴨下一郎衆議院議員より、「外科医は若手があこがれる存在になるよう、優秀な外科医が評価される仕組みを作っていきたい」とコメントをいただき、講演会・討論会の幕を閉じました。

追悼
北島政樹先生

 当NPO法人副理事長で国際医療福祉大学副理事長、慶應義塾大学 名誉教授の北島政樹先生が2019年5月21日、心不全によりご逝去されました。
 1966年に慶應義塾大学医学部をご卒業。1991年に慶應義塾大学外科学教授に就任、1999年に同大学病院長、2001年に医学部長を歴任されました。2007年に国際医療福祉大学副学長・国際医療福祉大学三田病院長に就任、2009年より国際医療福祉大学学長、2016年より国際医療福祉大学副理事長を務められ同大学の成田キャンパス新設および医学部新設に尽力されました。

 日本を代表する外科医として知られ、第100回日本外科学会会長、日本がん治療学会理事長、日本内視鏡学会理事長などを歴任されたほか、海外でも第42回万国外科学会会長、国際消化器外科学会会長、New England Journal of Medicine編集委員などの要職を務め、幅広く活躍されました。
 さらに、アジア初の手術支援ロボットda Vinciの導入、日本医療研究開発機構(AMED)のプログラム・スーパーバイザーを務めるなど、最先端外科医療と医工連携の先駆者で もありました。

 2006年に王貞治氏の胃癌全摘手術を腹腔鏡下で執刀されたことでも有名となりました。

 北島政樹先生は、当NPO法人の創設者でもあります。現理事長 松本晃とともに、若手外科医の不足、外科医の環境悪化に歯止めをかけるべくこのNPOを立ち上げられました。若者の教育にも熱心に取り組まれ、「きみが外科医になる日セミナー」では、多くの学生や若手医師との交流を楽しみにされていました。講演の中で、患者を思う「温かい心」ヒューマニズムが何よりも大切であると強調されました。また、市民公開講座などの広報活動でもご尽力いただきました。当NPO法人では、外科医の環境改善を求めて、行政に要望書を提出してきました。北島政樹先生にもその代表者の一人として働きかけていただきました。

 北島政樹先生の永年のご貢献に感謝し、また外科医療界での多大なるご功績を偲び謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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