特定非営利活動法人 日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会(若手外科系医師を増やす会)

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ニュースレター 2019年秋号

今号の内容

インタビュー
女性が多い職場だからこそ、すべての医師がいきいきと働ける環境を目指す
日本医科大学 産婦人科学教室 教授 明樂重夫先生

さまざまな診療科のなかで小児科や皮膚科とならび、女性医師が占める割合が多いと報告されているのが産婦人科です。今回は、医局員の半数以上が女性医師だという日本医科大学産婦人科学教室教授の明樂重夫先生に、ライフイベントとキャリアを両立させるための勤務体制の工夫や、若手医師を増やすための取り組みなどについて伺いました。

Perspective
医師の働き方改革の行方
~タスク・シフティングの議論が本格化~

医師の労働時間短縮のために欠かせない取り組みがタスク・シフティング/シェアリング。いよいよその具体的な取り組みに関する検討が厚生労働省で開始した。2024年に向けて急務とされるこの取り組みに関する議論の行方から目が離せない。

女性が多い職場だからこそ、すべての医師がいきいきと働ける環境を目指す

さまざまな診療科のなかで小児科や皮膚科とならび、女性医師が占める割合が多いと報告されているのが産婦人科です。今回は、医局員の半数以上が女性医師だという日本医科大学産婦人科学教室教授の明樂重夫先生に、ライフイベントとキャリアを両立させるための勤務体制の工夫や、若手医師を増やすための取り組みなどについて伺いました。

――若手医師を獲得するためにどのような取り組みをされていますか。

明樂(敬称略)産婦人科は外科と同様に臨床研修の必修診療科です。私はこの点が産婦人科にとって大きな強みだと考えています。当科へ研修に訪れた若手医師たちに対して必ず実践することは、産婦人科のやりがいとおもしろさを伝えることです。それぞれの診療科にその診療科ならではのやりがいがあると思います。産婦人科において、当科だからこそ経験できるやりがいを挙げるとすれば、それは「お産」という生命の誕生シーンを通し、患者様の人生におけるかけがえのない喜びを与えることができる点です。それを伝えるには実際にお産の場面を経験してもらうことが一番だと考えています。
 ただ、研修医が分娩の見学をすることを快く思わない妊産婦の方も一定数いらっしゃいます。そのためすべての研修医に実際の分娩の場に立ち会ってもらうことは難しくなってきています。
 そこで、この点についてはシミュレーションモデルを用いて分娩の疑似体験ができるようにしました。このような疑似体験はその素晴らしさを言葉で語るより研修医の気持ちを動かすのに有用であると感じています。
 もう1つ実践していることとしては、内視鏡による結紮の成功体験をしてもらうことです。内視鏡による結紮を研修医に実践してもらうと、初めほとんどの研修医はうまく扱うことができません。そこで私が理論を伝え、実技を指導しますと、1時間ほどですべての研修医が上手にできるようになります。このような成功の喜び・うれしさを体験してもらうことを大切にしています。
 さらに、産婦人科は内科的治療も外科的治療も最先端の医療に携わりたいという意欲旺盛な研修医の希望をかなえられる診療科であることを強調します。当科では薬物治療やがんなどの外科的治療、さらには不妊治療のような命の誕生に関わる最先端の医療まで幅広い知識や技術を生かした医療に携わることができる点を示します。
こうして産婦人科の面白さ、興味深さを伝えることで研修医たちの関心を集めるように工夫しています。ここまでが第一段階です。当科ではさらに若手医師獲得のための踏み込んだ対策を実践しています。

――さらに踏み込んだ対策とは具体的にどのような内容ですか。

明樂 重夫 先生

明樂1つ目のステップが当科に興味を持つ研修医の「徹底的な掘り起こし」だとすれば、2つ目のステップは当科に興味を持ってくれたその研修医たちへの「継続したアプローチ」です。屋根瓦のように医局のトップから若手医師までが一致団結し、共通の意識をもって人材獲得のための働きかけをします。
 たとえば、私はすべての研修医に「自分が生まれ変わって医師になったとしたら、また産婦人科医になる」というメッセージとともに、自分の成功体験を語ることで産婦人科のやりがいを伝えます。
 しかし残念ながら私がどんなに熱弁しても「それは教授だからできたことで、自分には無理だ」と思ってしまう研修医がいます。そこで研修医たちが、自分の3年後、5年後、10年後といった、より自分に身近な未来を思い描くためのモデルケースとなる若手医師、中堅医師と率直に意見を交わし合うサークル活動などの機会を継続的に設けています。
 また、将来を思い描きやすくするという点においては、確実なキャリアアップを実現できることを示すのも大事だと考えます。当科では産婦人科専門医の認定を取得するためのステップを制度化しています。この制度を通し、専門医になった先輩医師がいきいきと活躍する状況を示すことで、研修医が目指す方向性を明確化する手助けをするとともに、活発な医局であることをアピールします。

――貴教室では勤務する医師のうち半数を女性が占めているそうですが、女性医師がキャリアと出産・育児を両立させるために行っている施策がありましたら教えてください。

明樂出産・育児にかかわる女性医師が働きやすくするために実践していることは2つあります。1つは小さいお子さんがいる医師の当直免除で、もう1つは産休から復帰した際の再教育制度です。さらに、現在計画しているのがワークシェアリングで、いち早い実現が待たれているところです。
 このような対策を通し、女性医師がキャリアアップをあきらめず、生涯にわたっていきいきと働いてもらう環境づくりを推し進めることに取り組んでいます。一方で欠かせないのは、男性医師や独身女性医師の働きやすさです。
これらの立場が異なるそれぞれの医師の働きやすさを両立させなければ、「働きやすさ対策」の外にいる医師たちが疲弊してしまいます。
 そこで当科では、どのような立場の医師もプライベートと仕事のオン・オフを明確にし、安心して働き続けることができるように徹底しています。
 具体的には当直明けを休みにすることと、深夜や休日に呼び出されて出勤することがないようチーム制による代診を徹底することです。この代診制の徹底のおかげで、研修医は休むときにはしっかり体を休めることができ、また、アルバイトをしている場合にはそのための時間を確保し安定した収入を得ることにつながります。
 このように「医師の働きやすさ」を言及していくと、出産・育児をする女性医師、それ以外の女性医師、男性医師というそれぞれの立場による意見の食い違いが出てくることがありますが、私たちは産婦人科チームというワンチームです。すべての医局員が働きやすく、それぞれが目指すキャリアを実現できるような建設的な意見を出し合い、まずは自分たちの医局で推し進められることから一歩ずつ実践していきます。

明樂 重夫 先生
明樂 重夫 先生
日本医科大学 産婦人科学教室 教授

Perspective
医師の働き方改革の行方~タスク・シフティングの議論が本格化~

 医師の労働時間短縮のために欠かせない取り組みがタスク・シフティング/シェアリング。いよいよその具体的な取り組みに関する検討が厚生労働省で開始した。2024年に向けて急務とされるこの取り組みに関する議論の行方から目が離せない。

 本年10月23日に厚生労働省で第1回「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」が開催された。本テーマは本年3月に取りまとめられた「医師の働き方改革の推進に関する検討会」報告書において、医師の労働時間短縮のために徹底して取り組む必要があるとされた重要項目の一つだ。
 厚生労働省はこれまでに日本医師会や日本看護協会など計30の関係団体へヒアリングし、移管の可能性がある業務内容や職種についてリストアップを実施。その結果、処置・検査・手術・健診等、薬剤関連、患者観察・説明・指導・搬送等、書類作成・入力指示等の分野における計286項目の業務の移管可能性が示された。(表1.に一部抜粋)これらの業務のうち、医師以外の医療専門職が現行制度の下で「実施可能な業務」と「明確に示されていない業務」および「実施できない業務のうち、十分実施可能で法改正等を行えば実施可能となる業務」に分けて検討を進めることが提案されている。本年12月には一定のとりまとめが行われる見込みであり、医療現場でのタスク・シフティング/シェアリングの現実化が加速していくこととなろう。

 タスク・シフティング/シェアリングを検討するうえで忘れてはならないのは、本取り組みの目的は病院の勤務医の労働時間短縮であるという点である。だからこそ、それぞれの取り組みを「医師の労働時間をどれだけ削減できるのか」という効果と実現性を評価したうえで、効果が大きくかつ実現性の高い業務を優先的に推し進める必要がある。また業務移管を“される側”の視点も論点となる。「専門性の低い業務であるから」「面倒な雑務であるから」などといった説明で短絡的に移管を進めてしまうと、受け取る側のモチベーションは当然下がる。そもそも実施しなくても問題のない雑務であれば移管でなく削除すべきであり、他職種への移管よりもICT技術の活用が適している場合もある。移管する側・される側の視点と業務そのものの内容を精査したうえで、業務の目的と意義とをセットで移管していくことが望まれる。
 初回の検討会では、ナースプラクティショナー制度の新設を求める意見を含め活発な討議が交わされ、今後は法制の見直しも含め幅広い視点から議論が進められる予定だ。

表1. 各団体ヒアリングにおいて医師から他職種へ移管可能と整理・提案された業務の例
裵 英洙
著者プロフィール
裵 英洙
病院経営コンサルティング会社
ハイズ株式会社代表
(医師・医学博士医・MBA)

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